2008年11月12日水曜日

救急医療とホリスティック医学

今朝、病院である患者さんが突然心肺停止状態になった。私の受け持ち患者ではなかったが、院内にドクターコールの連絡が入ったため、すぐさま病室に駆けつけた。

病室の入ってみると、80代くらいの男性患者の周りにすでに何人かの医者とナースがおり、一生懸命に心臓マッサージをしていた。気管切開部からはおびただしい出血も見られた。たぶん気管支からの出血で喉がつまり、それで呼吸が止まったのかもしれない。

私もすぐさま中に加わり、交代しながら40分程マッサージを続けた。

もともと呼吸器疾患があり、人工呼吸器につながれている状態で、ずっと入院している患者さんだった。心臓マッサージという機械的な作業を続けながら、ふとむなしさを感じた。

目の前に横たわっている患者さんは先ほどまで意識のあった「人」であったが、今この瞬間はたんなる「もの」としか扱われていないんだなあ、と思ったからだ。

もっとも救急の場面ではごく当たり前な光景であり、何ら不適切なこともないのだが、今の医療の、人をものとして扱う典型的な姿が、この救急の場面に集約されている思いがした。

人生の最後の時なのに、血まみれになりながらも、これでもか!と言わんばかりに心臓にむち打つように、心臓マッサージが続けられる。もっと、穏やかに静かに、暖かく最後をむかえさせてあげられないものなのだろうか。

80歳の人工呼吸器に長らくつながれながら生きていた患者さんである。マニュアル通りに救急処置をするのは当然だが、もっと、人間味のあるかかわり方ができないのだろうかと思わずにはいられなかった。

救急医療にも、人を人として見るホリスティックな視点が必要なのではないだろうか。

黒丸尊治。