2010年12月25日土曜日

55歳の受験生:PART3


試験に合格するのはやはりうれしいものだ。
それなりの勉強はしたし、半分あきらめてもいたので、ほっとする。
受験勉強は精神衛生上よくない。

が、喉元過ぎれば熱さを忘れるのが人間。

性懲りもなく、次に「日本統合医療学会認定医」を目指すことにした。
またまたお受験である。
これに合格したら、晴れて西洋医学も統合医療も学んだホリスティックなDrと言えると思っている。


受験には単位取得が必要だ。
そのためには、セミナーを受講するのと学会に参加する事が必要。
7月のセミナーを、犬の看病でドタキャンしてしまったのだが、10月末に東京でセミナーがある。
値段も高いし、2日連続はしんどいのだが行かざるを得ない。

さらに12月に徳島である統合医療学会に出席すれば、単位が足りて、そこで開催される試験に間に合う。

今回はテキスト5冊分。
あらゆる分野の知識が必要だが、ホリ協で20年近く勉強してきたので、「なんとかなるわい」と、またまた土日をつぶして徳島へ。
写真は徳島大学の学会場。

「さっぱりわからん」のもあったけど、「がん専門医」よりはましで、予定終了時刻より早めに退出し、すぐさま京都へ。

忘年会に間に合わせるため、明石から京都まで新幹線に乗るという裏ワザを使う。
事故で新幹線の遅れがひどかったが、逆に1時間前の電車に乗れて、かえって京都に早く着いた。

これだけツキがあれば、試験は大丈夫だ。
と勝手に思い込んでいる。
(おわり)

愛場庸雅

2010年12月10日金曜日

55歳の受験生:PART2


神に見放された時は仕方がない。
自らの努力で運を切り開くしかないのだが・・

普段はしない勉強と犬を亡くした悲しみからか、
無理がたたって数日前に風邪をひく。
まずい。 喉が痛い。
前日は37.6度の微熱。
大阪で学会に出た後、午後の新幹線で東京へ。
ここまできたら、行くしかない。


今回の受験生は全国から約120名ぐらいいたみたいだ。
第1回の試験なので、合格率やボーダーライン、試験問題の難易度など全く不明。
だからこそ「怖いもの知らず」で受験できるのだが・・

資格試験だから、一定の正解率さえ出せば通る。
とはいえ、100%合格などという茶番はありえない。逆に言えば、何人かは必ず落ちる。

まわりは、大学の教授やら、がんセンターなどの中堅医師。
私よりもはるかに専門家で、がん関係の学会にしょっちゅう出ていて、最新の知識に詳しい人たちばかりだ。
少なくともそう見えてしまう。
彼らにはとてもかなわない。


試験は、思った以上に難しい。
ひっかけみたいなのもある。
一問を2分で解かないといけないので、時間との勝負だ。
症例の問題など、問題文を読んだり、写真の所見を読み取るだけでも時間がかかってしまう。

ちらちら時計を見ながら、あせる・・
とりあえず、ひととおり回答したらもう終了3分前。
わからないのでペンディングにしてたところは、考え直す余裕もなく終了。
クタクタになって、帰りの新幹線は放心状態。


後で調べてみると、「あれも違う」「ここも違う」がいっぱい出てくる。
かなりまずい。

来年もあるし、・・
まだあと9回受けられるし・・
と思うが、こんなお受験は二度とごめんだ・・


さて結果は・・

10月20日過ぎに、「頭頸部がん専門医認定証」が送られてきた。
が、話はこれで終わりではない。
(続く)
愛場庸雅

2010年12月9日木曜日

抗うつ剤は本当に効くのか?

世界中で最も患者数の多い病気がうつ病と言われている。
その治療薬が抗うつ剤であることは誰でも知っている。
抗うつ剤の売り上げ伸び率は年々急増している。
1999年が150億円だったのが2006年には870億円であるから
7年間で約6倍の伸びで、今もその傾向は変わらない。

もちろん抗うつ剤も立派な商品であり、売れなければ商売にならない。
当然製薬会社も売り込みに一生懸命だ。
うつが「心のカゼ」と言われ、ごく一般的な病気に思われるようになったのも、
ちょっと不眠があれば、それはうつの始まりだ考えられるようになったのも、
できるだけうつの患者を増やすための宣伝効果に寄るところが大きい。
その成果もあってか、うつの患者は年々増加し、すでに100万人を越えた。

一方で、新しい抗うつ剤が開発される度に患者の数も増えると言われている。
それは医者がうつを意識するようになり、
その視点から患者を診るようになるからだ。
医者もうつ病を意識すればするほど、みんなうつに見えてしまうものだ。
今まではちょっと気分が落ち込んでいるだけの普通の人だったのが、
見方によっては立派なうつ病の患者に見えてしまうわけだ。

患者は自分自身をうつ病だと思い、
医者はどんどんうつ病患者を作り出している。
本当のうつ病患者が増えているというよりも
そんな事情で、うつ病患者が激増しているとも言われている。
製薬会社の戦略はまさに大成功を収めたと言えよう。

さて、ここまでは前置きだ。実はこれからが本番の話だ。
ここまで広く世界中に普及してきた抗うつ剤だが、
実は、抗うつ剤の有効性は医学的には証明されていないのである。
つまり、プラシーボと比較して差がないということだ。

プラシーボとは、乳糖やデンプンの粉のように
全く薬理学的有効成分のない薬?のことだ。
頭痛の患者さんに、頭痛薬ですよと言って、プラシーボを処方しても
半分程度の患者さんは頭痛が軽減することが分かっている。
これがプラシーボ反応(効果)だ。
この事実を利用して、新薬が本当に有効か否かを調べるわけだ。

ある薬を開発する場合、必ず病院の協力を得て
患者さんに実際にその薬を飲んでもらうという生体実験をする。
この実験(治験という)への参加希望者を募り、集まった患者さんには
本当の抗うつ剤かプラシーボかのどちらかが投与される。
その際、処方する医者も、処方される患者も、
それが本当の薬かプラシーボかが分からないようになっている。
これを二重盲検法と言い、科学的信頼性の高い効果判定法と言われている。

このような方法で、全国の病院から集められたデータを集積し、
最終的に実薬を投与したグループの方が、プラシーボを投与したグループより
統計的に見て有効性が高いと判断された場合のみ、
この抗うつ剤は有効性があると判断されるわけだ。

そのようなデータを厚労省に提出し、それらをもとに薬の認可がおり、
それが一般市場(病院やクリニック)に出回ることになる。
つまり、常識的に考えれば市場に出回っている抗うつ剤は
すべてその有効性が科学的に立証されているものということになる。
ところが、実際にはそうではないのである。

このようなデータを取ってみると、データの結果は結構まちまちになる。
有効と出ることもあるが、プラシーボとあまり差がないこともある。
つまり有効性が証明されない場合も少なからずあるということだ。
もちろん、そんなデータを出せば認可されるわけがないし、
それまでに投資してきた何百億というお金も無駄になるので、
できるだけ何とかしたいと思うのが企業としての常識的な?考えだろう。

そのため都合の悪いデータは、結局発表されなというケースが極めて多いのだ。
イギリスでプラシーボ反応の研究をしているアービング・カーシュ教授は
表に出てこなかった論文もすべて集め、それらを集計したところ、
抗うつ剤もプラシーボも、うつ病に対する効果には差がないということがわかり、
これを2002年に論文として発表した。
これは世界中で大きな論争になった。
詳細は「抗うつ薬は本当に効くのか」(アービング・カーシュ著、石黒千秋訳)が
エクスナレッジという出版社から出ているので是非読んで頂きたい。

この本では、それらのデータはもちろんのこと、
医薬品開発の裏話や、薬の認可における規制当局との関係、
さらにはうつが脳の病気であるという根拠となっている
化学物質不均衡説(モノアミン説)の根拠のなさや、その説が生まれた背景など、
驚きの事実が次々と出てくる。

今流行の抗うつ剤はSSRIやSNRIと言われる種類のもので、
これは脳内にあるセロトニンやノルエピネフリンの濃度が低下することが
うつの原因であるという考えに基づいて開発された抗うつ剤だ。
そのためこれらの抗うつ剤には、
それらの脳内濃度の低下を防ぐ働きがある。
ところが一方では、全く正反対の考え方に基づいた抗うつ剤も開発されている。
つまり、セロトニン濃度を低下させることでうつを改善させようとするものだ。
これもすでに、その有効性が立証され市場に出回っている。

つまり、モノアミン説という、うつの原因を説明する仮説そのものが、
実はかなり曖昧な仮説なのだ。
その根拠の薄い仮説に基づいて、
ほとんどの抗うつ剤は開発されているわけだから、
抗うつ剤とはいったい何なのかという話にもなりかねない。
医学の世界は厳密な理論と揺るぎない科学的根拠に基づいていると思いきや、
実はかなりあやふやな仮説に上に成り立っているというのが現実のようだ。

もっとも私としては
抗うつ剤の有効性がプラシーボと差がないという事実の方に興味がある。
裏を返せば、プラシーボは抗うつ剤と同等の抗うつ作用を発揮するということだ。
もちろんこの場合、プラシーボに抗うつ作用があるわけではなく、
プラシーボを服用することで心の治癒力のスイッチが押され、
それが身体の治癒力に影響を及ぼし、結果としてうつが改善するという仕組みだ。
そうであれば、どんな方法であろうが、心の治癒力を機能させるような何か、
言い換えればプラシーボ反応を引き起こすような何かがあれば、
抗うつ剤に勝るとも劣らぬ効果をもたらすことが可能だということだ。
しかも副作用なしに。

そんな心の治癒力を引き出す様々な方法を開発する方が、
ずっと身体には優しくお金もかからない気がするのだが…。
ただし、製薬会社は決して喜ばないとは思うが…。
http://holicommu.web.fc2.com/9月22日のブログより転載)

2010年12月5日日曜日

55歳の受験生

30年前に国家試験に合格した時、「ああ、これで一生受験勉強から解放される」と思った。
しかし、昨今の資格ブームはそれを許してはくれない。
20年前に「耳鼻咽喉科専門医」が出来た時は、「移行措置」で、臨床経験と学会発表などの業績だけでとれた。
5年ほど前に、「補聴器相談医」をとったが、これは一週間缶詰のセミナー受講で取れるものだった。

だが昨年、「頭頸部がん専門医」という制度が出来た。耳鼻科領域の癌を扱う専門医である。
まず、「暫定指導医」という資格をとらねばならない。例えば、5年間で100例以上のがん患者の手術術式のリストを出すなど、これだけでも、資料を揃えるだけで大変だった。だが、実績があれば書類審査で済む。

しかしこの資格、有効期限は10年間に限られる。
その間に、「頭頸部がん専門医」試験を受けて、合格しなければならない。
今年が、その専門医試験の最初の年である。

10年たったら65歳。
「もう、資格なんかいらんのでは」とも思う。
しかし、がん拠点病院の担当診療部長としては、やっぱり資格がないとちょっとまずい。社会的信用も違う。他の病院のDrも受けるはずである。
老後の再就職にも役立つかもしれない。

まあ、落ちても収入が減るわけでもないし、(合格しても増えるわけでもないが)
10回機会はあるのだから、ということで受けてみる事にした。
55歳の受験生である。


試験日は9月4日だ。
120分で60問のマルチプルチョイス形式。
ふだんやっている、診断、治療方針、手術術式、化学療法などは比較的わかりやすいが、問題はがん全般にわたって出される。
例えば、がんの生物学、免疫学、病理学、疫学、統計処理の方法、診断学、放射線治療、化学療法、救急対応、ターミナルケア、倫理的問題などなど、およそがんにかかわる全ての分野だ。

しかもこれらの最近の(最先端ではないが)知識が要求される。
さすがに、勉強をしないと通らない。
7月ごろからテキストを読み始めたが、・・

若いころのように、頭に入らない。
老化とアルコールのせいで減ってしまった脳細胞にはかなりつらい。
普段の仕事と、病気の犬の世話で時間もなかなかとれない。

8月にはお受験体制で、頭の働く早朝にテキストを読むことにした。

8月上旬に京都に行く機会があった。
ついでに受験の神様「北野天満宮」に立ち寄る。
中学高校と6年間この近くに通ったのだか、結局中に入ったことはなかったところである。
困った時は神頼みに限る。
観光客に混ざって、おみくじを引いてみる。

凶・・だった。
(続く)


愛場庸雅