2010年12月9日木曜日

抗うつ剤は本当に効くのか?

世界中で最も患者数の多い病気がうつ病と言われている。
その治療薬が抗うつ剤であることは誰でも知っている。
抗うつ剤の売り上げ伸び率は年々急増している。
1999年が150億円だったのが2006年には870億円であるから
7年間で約6倍の伸びで、今もその傾向は変わらない。

もちろん抗うつ剤も立派な商品であり、売れなければ商売にならない。
当然製薬会社も売り込みに一生懸命だ。
うつが「心のカゼ」と言われ、ごく一般的な病気に思われるようになったのも、
ちょっと不眠があれば、それはうつの始まりだ考えられるようになったのも、
できるだけうつの患者を増やすための宣伝効果に寄るところが大きい。
その成果もあってか、うつの患者は年々増加し、すでに100万人を越えた。

一方で、新しい抗うつ剤が開発される度に患者の数も増えると言われている。
それは医者がうつを意識するようになり、
その視点から患者を診るようになるからだ。
医者もうつ病を意識すればするほど、みんなうつに見えてしまうものだ。
今まではちょっと気分が落ち込んでいるだけの普通の人だったのが、
見方によっては立派なうつ病の患者に見えてしまうわけだ。

患者は自分自身をうつ病だと思い、
医者はどんどんうつ病患者を作り出している。
本当のうつ病患者が増えているというよりも
そんな事情で、うつ病患者が激増しているとも言われている。
製薬会社の戦略はまさに大成功を収めたと言えよう。

さて、ここまでは前置きだ。実はこれからが本番の話だ。
ここまで広く世界中に普及してきた抗うつ剤だが、
実は、抗うつ剤の有効性は医学的には証明されていないのである。
つまり、プラシーボと比較して差がないということだ。

プラシーボとは、乳糖やデンプンの粉のように
全く薬理学的有効成分のない薬?のことだ。
頭痛の患者さんに、頭痛薬ですよと言って、プラシーボを処方しても
半分程度の患者さんは頭痛が軽減することが分かっている。
これがプラシーボ反応(効果)だ。
この事実を利用して、新薬が本当に有効か否かを調べるわけだ。

ある薬を開発する場合、必ず病院の協力を得て
患者さんに実際にその薬を飲んでもらうという生体実験をする。
この実験(治験という)への参加希望者を募り、集まった患者さんには
本当の抗うつ剤かプラシーボかのどちらかが投与される。
その際、処方する医者も、処方される患者も、
それが本当の薬かプラシーボかが分からないようになっている。
これを二重盲検法と言い、科学的信頼性の高い効果判定法と言われている。

このような方法で、全国の病院から集められたデータを集積し、
最終的に実薬を投与したグループの方が、プラシーボを投与したグループより
統計的に見て有効性が高いと判断された場合のみ、
この抗うつ剤は有効性があると判断されるわけだ。

そのようなデータを厚労省に提出し、それらをもとに薬の認可がおり、
それが一般市場(病院やクリニック)に出回ることになる。
つまり、常識的に考えれば市場に出回っている抗うつ剤は
すべてその有効性が科学的に立証されているものということになる。
ところが、実際にはそうではないのである。

このようなデータを取ってみると、データの結果は結構まちまちになる。
有効と出ることもあるが、プラシーボとあまり差がないこともある。
つまり有効性が証明されない場合も少なからずあるということだ。
もちろん、そんなデータを出せば認可されるわけがないし、
それまでに投資してきた何百億というお金も無駄になるので、
できるだけ何とかしたいと思うのが企業としての常識的な?考えだろう。

そのため都合の悪いデータは、結局発表されなというケースが極めて多いのだ。
イギリスでプラシーボ反応の研究をしているアービング・カーシュ教授は
表に出てこなかった論文もすべて集め、それらを集計したところ、
抗うつ剤もプラシーボも、うつ病に対する効果には差がないということがわかり、
これを2002年に論文として発表した。
これは世界中で大きな論争になった。
詳細は「抗うつ薬は本当に効くのか」(アービング・カーシュ著、石黒千秋訳)が
エクスナレッジという出版社から出ているので是非読んで頂きたい。

この本では、それらのデータはもちろんのこと、
医薬品開発の裏話や、薬の認可における規制当局との関係、
さらにはうつが脳の病気であるという根拠となっている
化学物質不均衡説(モノアミン説)の根拠のなさや、その説が生まれた背景など、
驚きの事実が次々と出てくる。

今流行の抗うつ剤はSSRIやSNRIと言われる種類のもので、
これは脳内にあるセロトニンやノルエピネフリンの濃度が低下することが
うつの原因であるという考えに基づいて開発された抗うつ剤だ。
そのためこれらの抗うつ剤には、
それらの脳内濃度の低下を防ぐ働きがある。
ところが一方では、全く正反対の考え方に基づいた抗うつ剤も開発されている。
つまり、セロトニン濃度を低下させることでうつを改善させようとするものだ。
これもすでに、その有効性が立証され市場に出回っている。

つまり、モノアミン説という、うつの原因を説明する仮説そのものが、
実はかなり曖昧な仮説なのだ。
その根拠の薄い仮説に基づいて、
ほとんどの抗うつ剤は開発されているわけだから、
抗うつ剤とはいったい何なのかという話にもなりかねない。
医学の世界は厳密な理論と揺るぎない科学的根拠に基づいていると思いきや、
実はかなりあやふやな仮説に上に成り立っているというのが現実のようだ。

もっとも私としては
抗うつ剤の有効性がプラシーボと差がないという事実の方に興味がある。
裏を返せば、プラシーボは抗うつ剤と同等の抗うつ作用を発揮するということだ。
もちろんこの場合、プラシーボに抗うつ作用があるわけではなく、
プラシーボを服用することで心の治癒力のスイッチが押され、
それが身体の治癒力に影響を及ぼし、結果としてうつが改善するという仕組みだ。
そうであれば、どんな方法であろうが、心の治癒力を機能させるような何か、
言い換えればプラシーボ反応を引き起こすような何かがあれば、
抗うつ剤に勝るとも劣らぬ効果をもたらすことが可能だということだ。
しかも副作用なしに。

そんな心の治癒力を引き出す様々な方法を開発する方が、
ずっと身体には優しくお金もかからない気がするのだが…。
ただし、製薬会社は決して喜ばないとは思うが…。
http://holicommu.web.fc2.com/9月22日のブログより転載)