犬を車に乗せて、山に向かってゆく。
山のふもとにさしかかると、急に荷物室に居る犬の呼吸が荒くなる。
知っているのだ。
「もうちょっとやから! ちょっと待て!」となだめながら、いつものところに車を止める。
ドアを開けると、待ちきれない犬が飛び出し、大喜びで走り回る。
山の中に、小さな池がある。
近くまでくると犬はダッシュして、ざぶんと池に飛び込む。
枯れ木の枝を投げてやると、泳いで取りに行く。
口にくわえて、鼻をフガフガさせながら戻ってくる。
そんな楽しい時間をずいぶんと持ったものだ。
骨折して、後ろ足が立たなくなってからは、そんな楽しみ方はできなくなってしまった。さすがに山道は歩けない。
それでも、近くの公園まで散歩に行く。
お腹にタオルを通して下半身を支えてやると、前脚だけで歩く。
いつも可愛がってくれる人を見つけると、走り出す。
あわてて、飼い主もついて走る。
犬との二人三脚。
この一体感はなかなかいい。
こんなことは、障害をもっているからこそ出来るのだ。
「障害は不便ではあるが不幸ではない」と誰かも言っていた。
そんな楽しみもこの夏で終わってしまった。
犬と過ごしたこの14年間、思い出すのは楽しいことばかりだ。
ずいぶんと癒されたものだと思う。
長い間、本当に有り難う。
愛場庸雅