2010年12月5日日曜日

55歳の受験生

30年前に国家試験に合格した時、「ああ、これで一生受験勉強から解放される」と思った。
しかし、昨今の資格ブームはそれを許してはくれない。
20年前に「耳鼻咽喉科専門医」が出来た時は、「移行措置」で、臨床経験と学会発表などの業績だけでとれた。
5年ほど前に、「補聴器相談医」をとったが、これは一週間缶詰のセミナー受講で取れるものだった。

だが昨年、「頭頸部がん専門医」という制度が出来た。耳鼻科領域の癌を扱う専門医である。
まず、「暫定指導医」という資格をとらねばならない。例えば、5年間で100例以上のがん患者の手術術式のリストを出すなど、これだけでも、資料を揃えるだけで大変だった。だが、実績があれば書類審査で済む。

しかしこの資格、有効期限は10年間に限られる。
その間に、「頭頸部がん専門医」試験を受けて、合格しなければならない。
今年が、その専門医試験の最初の年である。

10年たったら65歳。
「もう、資格なんかいらんのでは」とも思う。
しかし、がん拠点病院の担当診療部長としては、やっぱり資格がないとちょっとまずい。社会的信用も違う。他の病院のDrも受けるはずである。
老後の再就職にも役立つかもしれない。

まあ、落ちても収入が減るわけでもないし、(合格しても増えるわけでもないが)
10回機会はあるのだから、ということで受けてみる事にした。
55歳の受験生である。


試験日は9月4日だ。
120分で60問のマルチプルチョイス形式。
ふだんやっている、診断、治療方針、手術術式、化学療法などは比較的わかりやすいが、問題はがん全般にわたって出される。
例えば、がんの生物学、免疫学、病理学、疫学、統計処理の方法、診断学、放射線治療、化学療法、救急対応、ターミナルケア、倫理的問題などなど、およそがんにかかわる全ての分野だ。

しかもこれらの最近の(最先端ではないが)知識が要求される。
さすがに、勉強をしないと通らない。
7月ごろからテキストを読み始めたが、・・

若いころのように、頭に入らない。
老化とアルコールのせいで減ってしまった脳細胞にはかなりつらい。
普段の仕事と、病気の犬の世話で時間もなかなかとれない。

8月にはお受験体制で、頭の働く早朝にテキストを読むことにした。

8月上旬に京都に行く機会があった。
ついでに受験の神様「北野天満宮」に立ち寄る。
中学高校と6年間この近くに通ったのだか、結局中に入ったことはなかったところである。
困った時は神頼みに限る。
観光客に混ざって、おみくじを引いてみる。

凶・・だった。
(続く)


愛場庸雅