2011年1月23日日曜日

EBMとホリスティック part1


今、医学の分野では、科学的な研究によるEBM(Evidence based medicine:根拠に基づく医療)ということがよく言われる。
しかし、代替医療はEBMにはそぐわない。EBMの方法論そのものが、分析的な近代科学の考え方にのっとっていないからだ。
とはいえ、今の世の中は、科学的根拠は金科玉条である。それがないと信頼されない。
そんなわけで、統合医療学会の発表でも、代替医療のエビデンスを示す発表が目立っていた。
が、どうも違和感を感じてしまう。

今、最もエビデンスレベルが高いとされているのは、二重盲検無作為割り付け比較試験のメタアナリシス(多数の論文を集めて分析する)だ。
二重盲検というのは、薬の場合だと本物(実薬)とプラシーボ(偽薬)とを、当事者である患者はもちろん、薬を出す医者にも、どちらが当たったかわからないようにして、効果に対する心理的影響をできるだけ排除するという方法だ。
科学的で、公正な試験方法である。

ただ、落とし穴がある。

ここで、仮にある病気に効くという、A,Bという2種類の薬とプラシーボの三者で比較試験を行ったとする。
それぞれに100例ずつの患者を無作為に割り当て、実験した結果、
有効率が、A:72%、B:31%、プラシーボ:30%と出たとする。
統計学的検定をすると、Aとプラシーボには有意差があり、Bとプラシーボには有意差は無い。
(註:実際の臨床試験でここまで差がつくことは少ない)

この結果、当然Aば有効な薬、Bは無効な薬ということになり、Aは保険適用もとれて、良く売れ、Bは承認されずに消えてゆくことになる。

だが、本当にそれでいいのだろうか?

もう少し考えてみよう。

Aの有効率は72%、72人の人に効いて、28人には効かなかったわけだ。逆にプラシーボは30人の人に効いて(?)、70人の人には効かなかった、という事になる。
ということは、Aを飲んで効果のあった人のうち30%はプラシーボ効果のはずである。
だから、本当にAで効果のあった人は72-30=42%の人ということになる。
つまり、Aという薬を飲んだ時に、純粋にAという薬の利益を受けることができる確率は、42%である。すなわち、半分に満たない。
残りの58%は、薬が全く効かないか、プラシーボ効果で治ったかのどちらかである。

「Aの有効性が証明された」となると、ついついAは絶対的に効くと思いこみがちである。だが、実際のAの価値は42%、半分以下。その程度のものなのだ。

もちろんAは優れた薬である。エビデンスは確かにある。
だがそれは絶対ではない。
Aが絶対だと思いこんでしまうところに問題がある。

では、もう一つの薬、Bはどうなるのだろうか?
(続く)
愛場庸雅