2010年8月31日火曜日

ホメオパシー報道について

先週の8月25日付けの朝日新聞に大きく取り上げられた
ホメオパシーに関する一連の報道について
私個人の意見を述べさせてもらいたいと思います。

これは山口で、ビタミンKを投与されなかった新生児が
頭蓋内出血を起こして死亡した事件で、
担当の助産師がビタミンKの代わりに
ホメオパシーを投与していたことが明るみに出たことから、
ホメオパシーを医療現場から排除するべきだという見解を
日本学術会議金澤一郎会長が発表、それが報道されたものです。

金澤会長はホメオパシーに対して、
「治療効果は科学的に明確に否定されて」いる治療法であり、
それを信じ、それに頼ることにより、
確実で有効な西洋医学的治療を受ける機会を
逃す可能性があることが大きな問題であり、そのようなことが起きないよう
「医療関係者がホメオパシーを治療に使用することは認め」ないし、
また「医療現場からこれを排除」すべきだと述べています。

金澤会長の談話や朝日新聞の報道には、いくつかの問題があるかと思います。
まず今回の事件に関しては、
助産師が新生児にビタミンKを飲ませなかったことは
明らかに問題だと思います。これは否定しません。
ただその問題と、ホメオパシーを全否定し、それを医療現場から排除すべきだ、
ということとは別問題だと思っています。
これがホメオパシーではなく、漢方薬だったり、
他の代替療法だったりする可能性もあったはずです。
しかし、それがたまたまホメオパシーだったということで
やり玉に挙げられた可能性は十分にあります。

金澤会長は1年半前からホメオパシーに目を付けており
何かの折にホメオパシーを叩く思いは十分にあったことが予想されます。
もっとも日本ホメオパシー医学協会(会長:由井寅子)も、
医者や西洋医学に対する反発心が根底にはあるようなので、
ホメオパシーの信者に悪しき影響を与える可能性は否定できません。
そんな団体が大きくなり、世の中に影響力を持つようになることに対して
大きな危機感を持ったのは確かなようです。
そのような危険を避けるために今回のような事件をきっかけに
日本ホメオパシー医学協会潰しにかかったのではないでしょうか。
ホメオパシーも、とんだとばっちりを受けてしまったといった思いです。

さて、金澤会長はホメオパシーの有効性についても触れていますが、
実際には治療効果が明確に否定されているわけではありません。
否定的な論文もありますが、有効であったという論文もたくさんあります。
ですから、有効性に関しては肯定もできないが否定もできない、
というのが正確なところだと思います。

なお有効性が証明されていない治療法に関しては
西洋医学にもたくさんあります。
例えばアービング・カーシュは抗うつ剤に関する論文を調べ上げ、
実は、プラシーボとさほど変わらないことを発表していますし、
2002年のNEJM(有名な医学論文)には、変形性膝関節症に対する
関節鏡手術はプラシーボ手術と効果は変わらなかったと発表されています。
つまり、これらのうつや痛みの症状が改善されたのは、
すべてプラシーボ反応(効果)によるものだというのです。

ホメオパシーが効くと言われるのも、
このプラシーボ反応に過ぎないと金澤会長は言っていますが、
私は、プラシーボ反応は医学の治療には
なくてはならない要素だと思っています。
プラシーボ反応とは、心の治癒力そのものです。
何かの「きっかけ」があり、それによって心の治癒力のスイッチがONになる。
その結果、痛みが取れたり、症状が改善したりするというのは
臨床現場ではしばしば経験する、ごく普通の現象です。

医者の「大丈夫ですよ」というひと言で、スーッと胃の不快感がなくなったり、
生理食塩水の点滴でめまいが取れたり、
胃薬を睡眠薬と間違って飲んでも、よく眠れたり等々
これらは、医者のひと言や点滴、薬が「きっかけ」となり
心の治癒力が引き出された結果です。

このようにプラシーボ反応は
治療現場では切っても切れない存在なのです。
これにより患者さんの心の治癒力が引き出され、
症状が改善するのであれば、それも大切なことだと思っています。
ですからホメオパシーの投与により心の治癒力が引き出され、
症状が改善されるならば、
副作用のある薬を使うよりも、有用である場合が多いと考えています。

そもそも臨床の現場では
医者と患者とのコミュニケーションもかかわってきます。
薬の有効性だけを取り上げ、云々言うのは
患者の気持ちやコミュニケーションといった「つながり」の部分を無視し、
現実離れした議論になってしまう危険性があります。
この点は、しっかりと押さえておかなくてはいけない点だと思っています。

またホメオパシーを信じることにより、
有効な西洋医学の治療を受ける機会を逃す可能性にも言及していますが、
これはホメオパシーだけが唯一絶対の治療法だと思い込んでいる
一部のホメオパシー信仰の信者さんの問題だと言えましょう。
これが唯一絶対などという治療法はありませんので、
通常は西洋医学的治療とホメオパシーなどの代替療法を比べ
必要に応じてそれらの治療を使い分けるというのが一般的だと思います。
この一部の信者さんがいるためにホメオパシーを排除するというのは
ホメオパシーを適切に利用している医療従事者や一般の人たちにとっては、
大きな迷惑以外の何者でもありません。

なお日本医師会も金澤会長の談話に
賛同しているとのコメントを出していますが、
医師らで構成されている日本ホメオパシー医学会(会長:帯津良一)に対しては
今のところ、特段の申し入れ等をする予定はないとしています。
金澤会長は医療の世界からホメオパシーを排除するべきだと言っていますが、
西洋医学的治療にホメオパシーを取り入れる、
という考え方で治療に取り組んでいる日本ホメオパシー医学会に対しては、
日本医師会もそこまで強くは考えていないのではないでしょうか。
もっとも医師法や薬事法からみても医者がホメオパシーを使ってはいけない、
ということにはならず、実際には医療の世界からホメオパシーを
排除することはできないと考えています。

ホメオパシー信仰の信者さんも考えものですが、
西洋医学信仰、科学信仰の信者さんも、どうかと思いますね。
みんな自分が正しいと思い込み、相手を非難するというのが世の常ですが…。
まあ、これをきっかけにホメオパシーや他の代替医療に関する
ディスカッションが大いになされることを私は期待しています。
http://holicommu.web.fc2.com/8月31日のブログより転載)